


妻が夫を送り出す時に火打ち石をカチカチやる、あの儀式[鑽火]は
映画や戦争のフィルムでしか見たことがない。
ただ日常の儀式ではなく、神事としてであれば
豊作の祈祷だか何だかの時にカチカチやることはあった。
伊勢神宮があることと神事がさかんなことは関係あるだろうか。
みなさんも見たことがある、やったことがあるという経験がありましたら
教えていただけると僕がにっこりする。
そういう地域差のあるまじないや習慣はとても好き。
僕は僕用の火打ち石を持っていた。
宗教は関係ない。
家の土蔵に捨ててあったがらくたを、面白いから持っていただけだ。
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今は「フクザツな家庭の子」を内情まで含めて
センセーショナルに知ることができる。
というか、もう知りすぎてお腹いっぱいだ。
むしろ「フツーの家庭」のが希少なのではとさえ思える。
だが当時は複雑な家庭を知ることはできなかった。
村木は僕が初めて触れた、複雑な家庭の子だった。
何もできないので何かを一生懸命しようとした。
勉強をがんばればよかったんだが、逃げた。
面白くなかったから。
何もできない何もできないと言い訳を繰り返しながら、
僕はただ火打ち石で魔を祓う。
愚かだが
否定するにはあまりに純粋だ。
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冬虫夏草……。うごめ紀?